2009年6月 Up date

。。。そよかぜ便りに戻る。。。

あじさいの詩   今年もあの二人に会うことは無いのだろうか?
今は、梅雨の季節なのに雨が降らない。あじさいは雨を待って咲いているのに 大空は知らん振りして、お日様とおしゃべりしてる。


  しおりに会いたい、パクのあの笑顔が見たい。
二人に出会ったあの時のことが、昨日のように思い出される。

  あれは、しとしと降る雨の中。私は大好きなガクアジサイを探して歩いていた。そのうちに、私は古い洋館の前に立っていた。
そして垣根で囲まれた敷地の中に、淡い青むらさきのそれを見つけた。
しかし、この館に人の住む気配は無かった。でも、庭は手入れされ、荒れた様子も無い。垣根を越えて敷地に入るすべも無く、立ち去ろうとした。

  「おじさん、どうして帰ってしまうの?」
垣根の向こうから声がした。女の子の声だった。
思わず振り返ると、可愛い女の子と男の子が垣根越しに笑顔で私を見ていた。
その頃は雨もやみ、空は薄明るくなっていた。
「こんにちは…」私は二人に声をかけた。すると女の子は
「おじさん、おじさんがあじさいおじさんなんでしょう?」
「あじさいおじさん? ん、まあ、花の中で一番好きな花だから、そう呼んでもらえれば嬉しいなあ…」
「やはりそうなんですね。良かった、声をかけて…。わたしの言ったとおりでしょ、パク…」
女の子は、隣の男の子に嬉しそうに話していた。
「君はパク君か。はじめまして。私はジジ…。お姉ちゃんは?」
「わたしは、しおりです」
三人の笑顔がそこにあった。

  それから、しおりが言った。
「あじさいおじさん、ジジおじさん。今、門を開けますから…」
そして、門の向こう側でガチャガチャと音がしていたが、ギギッと門が少し開いた。
「ありがとう」…
そう言いながら門を押し開け、一歩足を踏み入れた。ところが、「………?」二人の姿が見えない。そして空は薄暗くなり、ポツリポツリと再び雨が降り出していた。
「おーい、どこへ行ったんだい!」声を張り上げて呼んでも、返事は無かった。家の中に入ったのか?私は玄関まで歩いて行き、ドアにかかる呼び鈴を鳴らしてみた。そして、ドアを何度も叩いてみたがシーンと静まりかえっていた。
「あじさいおじさん、こっちでーす」
その時、私を呼ぶ二人の声がした。それは、紫陽花の庭の方から聞こえてきた。しかし、二人の姿はここにも無かった。

あじさいの詩   この洋館の庭に咲く紫陽花は、見事なまでに花を咲かせていた。淡い青のむらさきから、淡い赤むらさき。 少しピンクなもの、赤みがかったもの。様々な色合いの花が雨に濡れ、それぞれに装い着飾っていた。
これほどまでに美しく着飾ったあじさいの花を私はを見たことが無かった。そのため、しおりとパクのことを忘れてしまっていた。
それから雨も止み、私は夢中で水彩の絵の具と画用紙を取りだし、心のままに花を描き始めた。
すると、雲の合間から光が注がれ、その光を浴びて彼女たちはさらに美しく輝いた。
と……まるで虹が現れるかのように、花の前に微笑む子供たちの姿があった。
「………」
私は、その不思議さのゆえに声を出すことが出来なかった。

「ジジおじさん、花の絵を描いて下さったんですね。うわあ、きれい…!どう、パク?」
「うん、色がきれい。ジジおじさんは、お姉ちゃんが言った通りあじさいおじさんだったね」
「こんな素敵な絵を描くんだから、きっと優しいおじさんだよ」
「そうだ、お姉ちゃん。ここにボクたちも描いてもらおうよ」
「そうだね。あじさいおじさんに頼んでみるね…」
私は、二人の会話を楽しんでいた。心地よくもあり、二人に出会ったことを喜んでいた。
その頃までに、雲は途切れて優しい光が二人を照らしていた。
「さあ、絵の完成だ!」
「うわー、すごい。パクの可愛いこと…」
「お姉ちゃん、あじさいおじさんを待ってて良かったね」
そう言うと、しおりは絵をあじさいの花、ひとつひとつに見せるようにはしゃいでいた。
そして言った。
「あじさいおじさん、ジジおじさん。みんなとても喜んでくれました。これは、みんなからのお礼です…。聞いて下さいね」

  すると、あじさいは横にゆっくり揺れ、しおりとパクが歌い始めた。
雨おじさん・ジジ 「これは…」、私は目を閉じて、二人の歌声に聞き入っていた。
「あじさいの歌……」
二度と聞くことの無い二人の歌声は、光に包まれて私の心に響きわたっている…。そこに、夢心地のジジが居た。
そして、歌は終わった。

「あじさいおじさん、素敵なおじさんと会えて嬉しかったです」
「ジジおじさん、ボクのこと忘れないで下さいね…」
そう言う二人の声にハッと我に返った、その瞬間…。
強い風が、紫陽花の上を通りすぎていった。美しく咲く花びらは、空中高く散り散りに飛ばされてしまった。
次に、大粒の雨が凄い勢いで、ザアーっと降ってきた。私はあわてて紫陽花の絵を、濡れない様にかばんの中にしまった。今はただ、花の無い緑の葉だけが、私の目の前にあり、可愛い笑顔を残して、あの二人も消えてしまった。
「しおりとパク…。あじさいから生まれた子供たち…」私は一人つぶやいていた。


  その翌年の同じ季節に洋館を訪れてみた。しかし、そこは荒れ果て、庭は雑草で覆われてしまっていた。

  紫陽花の季節が巡ってくるたびに、私は思うのだ。
あじさいたちは、しおりとパクに願いを託して私の前に現れ、最後の美しい輝きを、絵に残しておきたかったのだ。と…。

そしてその絵は、そよ吹く風の村の図書館に飾られている…。


おわり